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HIVの治療はHAART(ハート)療法と言われるものがある。2008年の3月に発行された厚生労働省のガイドラインによるとCD4陽性T細胞数が350個/μl以下になる前、あるいはAIDSを発症している場合にHAART療法を開始するべきとしている。これは生命表解析から、3年後AIDS発症のリスク30%以上とするデータと治療を行った場合、安定期には正常人と同様のCD4陽性Tリンパ球数が得られる(安定期のリスク軽減目的)というデータに基づいて作られている。一般に感染症の化学療法は1剤投与にて開始するのが通常である。例外としてあげられるのが結核、ハンセン病、HIVなどであり耐性の問題から最初から多剤併用化学療法を行う。標準的にはNRTI(ヌクレオチド系逆転写酵素阻害剤)2剤+NNRI(非ヌクレオチド系逆転写酵素阻害薬)1剤か、NRTI2剤+PI(プロテアーゼ阻害剤、HIV治療としては原則として少量RTV、リトナビルを使用しPIの血中濃度を上昇させる)1剤の併用療法が知られている。これらの治療効果はHIV増殖を十分に抑制し、CD4陽性Tリンパ球数を増加させることである。重症のカリニ肺炎などで緊急入院した場合、免疫機能の回復を目指し抗HIV薬を開始したくもなるのだが、これは意味がない。耐性を作り出し、HIVを難治化させるだけである。さらに悪いことに免疫再構築症候群という現象も知られている。免疫不全の患者は感染量に比べると炎症は実は軽度である。日和見感染症治療中にHARRT療法を開始すると免疫が賦活化することによって、日和見感染症が悪化することがある、これが免疫再構築症候群(IRIS アイリス)である。そのようなことからHARRT療法は日和見感染症治療後に開始することとなっている。一般的には免疫不全のあるHIV感染者に対してHARRT療法開始後、数か月以内に日和見感染症などの疾患が発症、再発、再増悪した場合に免疫再構築症候群が疑われる。治療はプレドニゾロン1mg/kgにて開始し、週から月単位での減量やデキサメサゾン8~16mg/dayを一日2回に分けて投与するという方法が知られている。最悪の場合はHARRT療法中止に追い込まれる。いずれにせよ、このような危険が付きまとうためHARRT療法は感染症専門医の下で開始されることが推奨されている。特にCD4陽性Tリンパ球が低値、例えば50個/μl以下の場合は、眼底検査、胸部X線写真、真菌抗原といった検査を行ってからHARRT療法を行うことになっている。HARRT療法は安定期まで持っていければ殆どAIDSで死亡することはなくなった。ガイドラインで用いられているデータも10年生存率まで記載されており、おそらく平均余命まで行くであろうというのが大方の予想である(HIVの発見が1981年ということを考えるとここまでデータがあれば十分である)。 治療効果判定に治療開始後24週、48週のHIVウイルス量などが用いられるが、判定及び治療変更は専門医の領域である。一般的にウイルス量は検出不能とするのが目標だが、そうならないことも多々ある。400~1000copy/ml(治療開始前は55000copy/mlとかである)位でも治療失敗の可能性が高い。その場合、服薬の問題、耐性の問題を考慮する。遺伝子型耐性検査を行うのだが、耐性ウイルスが30%以上を占めない限り検出されないうえ、変異は多数見つかり、それにより発生する薬剤耐性が相加的でないため、その解釈は非常に難しく、その結果に基づいた継続可能な患者に合わせた多剤併用療法の作成というのは非専門医では負荷のである。サルベージ療法として新しいPIダルナビルなどが認可されているが、その効果予想や併用薬剤の選択などは極めて難しい。 治療留意点としては基本的にHARRT療法は一生継続しなければならない。近年の薬は副作用も軽減され、剤型、内服時間もだいぶ改善されてきた(かつては食前薬、食中薬、食後薬と様々存在した)。それでも基本的に3剤飲み、副作用対策の薬もあり、CD4陽性Tリンパ球数が十分に回復しなければ日和見感染予防薬も飲まなければならない。有名な副作用としては開始直後から出現し徐々に軽快する胃腸障害や精神障害、開始後1~3週で一過性に生じる皮疹、開始後1カ月以上してから生じ持続する高脂血症、リポアトロフィー(脂肪分布の変化)、糖代謝異常(高脂血症と併せて年間30%リスクで虚血性心疾患のリスクが高まるかつ、PIとNNRTIはスタチン系と併用禁忌)、末梢神経障害、稀だが重篤な乳酸アシドーシス(NRTIにてミトコンドリアDNA合成を阻害するため)などが知られている。HIVはアメリカ、欧州で莫大な研究費をかけて積極的に研究されてきた経緯があるために、過去の疾患と考えられがちな結核や、未だに培養すら満足にできない(うさぎの睾丸内では育つのだが)梅毒よりもよくわかっている側面がある。いつまでも古い(副作用が強い)治療薬を使いまわしている結核とは異なり、最新鋭の治療が行えるという魅力はある。安定期に入れば一般内科でフォローアップし、専門医外来の通院数を減らすのが主流である。しかし、HIVによる消化器障害、脳症などもあり、少し頭痛がするというだけで髄膜炎であったり、調子が悪いというだけの主訴で乳酸アシドーシスであることもある。治療開始が遅れ、十分にCD4陽性T細胞数が回復しなかった場合は、特に症状に対する鑑別疾患が通常の生活習慣病管理とは全く異なるため何かと難しい側面もある。